歯科とスリィディと私

愛する患者の為いち歯医者が3Dプリント技術と戦うブログ。たまにギークな話題も。

GIZMODE さんがちょっと勘違いして歯科関係の記事を書いているので歯医者がツッコミを入れるよ

time 2015/08/23

GIZMODE さんがちょっと勘違いして歯科関係の記事を書いているので歯医者がツッコミを入れるよ

ネットサーフィン中に読んでいて「んん?」と思ったのがこちらの記事のこの部分。

例えば歯型。歯型をとるとき、いままでは型取り剤を口に流し込んでいましたよね。あれって本当に不快じゃありません? しばらく口を開いていなきゃいけないし、ドロドロとセメントみたいなやつを流し込まれるし…「オエッ」ってなりそうになった方も多いはず。

先述したMakerBotを保有する3Dプリンティング企業のStratasysは、この歯型取りのプロセスを3Dプリンターを用いることですべてデジタル化してくれるといいます。つまりもうあの不快な体験をしなくても済むんです!この技術により、歯科医はより安価で精度の高い歯型をつくることが可能になるそうです。

via. えっこんなものまで!? 3Dプリンターが存在する以前はつくれなかったものたち : ギズモード・ジャパン

特に気になったのはこの部分。

この文章を素直に読むと、「型取り材を使わずに精巧な歯型を作れる」と受け取れるんですが、ちょっとまってくれ、それは現状ありえない話だから。

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目次

元となった英文を読んでみる

これは翻訳記事なので、元となった英文にもそんなことが書いてあるのか、確かめてみました。

Let’s start with dental trays: Those molds of your chompers that’re made with gross cement stuff that you have to leave in your mouth for minutes on end. They’re useful because they can help dentists and orthodontists create appliances like retainers or braces, and can give them a three dimensional, kinesthetic mold of your mouth.

Over at Stratasys, the 3D printing company that owns MakerBot, 3D-printed dental trays are going from CAD file to model, blazing trails in orthodontics. It gives orthodontists and dentists a cheap, accurate glimpse into a patient’s maw. It’s way easier than those nasty physical impressions with the cement, and way less gag-inducing.

via. Objects That Couldn’t Be Made Before 3D Printers Existed

書いてないじゃん(怒)

元となった英文に書かれているのは、大雑把に言うと「型取りした歯型から、矯正歯科医が矯正装置を3Dプリント技術を使って安価で製作できる」という内容。

どこにも「型取り材を使わずに精巧な歯型を作れる」なんて書いてないですよ〜も〜ぷんぷん(キャラが迷走している)

何故誤って翻訳してしまったのか

翻訳を担当した人が歯科について全く知らない、というのが一番の原因だとは思うのですが、誤訳した理由があるだろうと原文をもう一度見てみると・・・

Let’s start with dental trays

たぶんここから勘違いが始まったんだと思われます。

「dental trays」を Google画像検索すると、以下の様な画像が出てきます。

Aug 23 20152

歯医者で型取りをしたことのある方なら一度は見たことのあるであろう、いわゆる型取り用のトレーがずらずらと出てきます。

たぶん、翻訳された方はこれを見て「dental trays = 型取り用のトレー」と思ってしまい、誤訳を始めてしまったのではないか、と予想していますが、実は「dental trays」と単純に表記した場合、その正体はコレです。

Aug 23 20151

マルで囲んだコレ。そう、俗にいう「マウスピース」のことなんです。ちなみに、型取り用のトレーは「impression trays」。

この勘違い+歯科の知識の無さ、のコンボにより誤訳が生まれたのでは、と予想しています。

実際はどんな技術なのか

矯正歯科医は、型取りした歯型、顎の大きさや位置を撮影したX線写真などから、患者の歯をどう動かしていくべきか、どう力をかけていくべきか、を計画し、それに合わせて矯正装置を製作していきます。製作を全て自分でやられる矯正歯科医もいますし、歯科技工士に任せる人もいますが、基本的には「型取りした歯型の上で矯正装置を製作」していきます。

また、その矯正装置を実際に口の中に合わせるために、実際に患者の口の中で微調整を重ねたりします。

英文の元記事で紹介されている「Objet30 OrthoDesk」は、これまで矯正歯科医が頭の中で計画を立て、模型上で矯正装置を製作していた、というプロセスを、完全にデジタル化する、というものです。決して「歯型取りのプロセスを3Dプリンターを用いることですべてデジタル化してくれるわけじゃない」んです。わかりましたかギズモード日本語版の翻訳の方!

つまり、型取りした歯型を3Dスキャナでデジタルデータとして読み込み、CAD 上で力をかける方向を設計し、歯に対して設計した力がかかるようなマウスピースを3Dプリンタで製作する、というのが実際の技術です。

誤訳した方の技術はどうなっているのか

誤訳した翻訳者の方は「型取り材が不快」と書かれていましたが、型取り材を不要な方法は無いのか、というと、実は既にあります。

型取りのことを歯科では「印象採得」と呼びますが、口の中に光学スキャンを用いる「光学印象採得」は既に実在します。ただし、一度に型取りできる範囲が狭く、全顎に渡るような広範囲を型取りするのは、誤差等の問題から、まだまだ実用的ではありません。

また、CTスキャンのデータを用いる方法もありますが、型取りするためだけにX線被曝量の多いCTを用いるのは、現実的とは言えませんし、やはり精度の問題があります。

なので、現状では型取り材を用いて歯型を取る、というのが最も現実的で、正確で、そして安価な方法、というわけなのです。

昔は石膏を用いて口の中の型を採っていた時代もあるので、現代人はこれでもすごく楽になっているんですけどね・・・。

こちらからのツッコミは以上です。

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コメント

  • GIZMODEさんは歯科関係でなくても、技術系の記事の翻訳が雑な時がちょいちょいありますよ・・

    by 名無しの通りすがり €2015年8月23日 3:06 PM

    • コメントありがとうございます。
      確かにちょいちょい違和感を感じるときはありますよね(^_^;)
      今回は自分の分野だったので違和感でなくはっきりと間違いだと気付きましたが、こうやってよくわからない思い込みや噂って作られていくのかなぁ〜、とある意味感慨深くなりました。

      by はまでん €2015年8月23日 8:45 PM

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