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今日は珍しく歯科の話
今日は BS01 や 3Dプリンタの話ではなく、歯科の話です。歯医者仲間から「3Dで今の義歯のデータ保管は簡単な事ですか??」という質問と共に以下の記事について問われました。
最短2時間で入れ歯複製 豊中の民間歯科医院がデータセンター 大阪 – 産経ニュース
細かい内容はリンク先をご覧頂くとして、主な内容は
東日本大震災以降、患者から「もし入れ歯を外したまま避難したらどうしよう」などと相談されるようになり、データを保管するサービスを開始。好評だったため、同院の患者以外にも対応することにした。
データセンターの対象は総入れ歯。入れ歯を型どりした模型と、上下のあごの形と位置関係の記録、かみ合わせの記録を集めて管理する。模型に樹脂を流し込むなどすれば、わざわざ来院しなくても、最短2時間で愛用していた入れ歯の複製ができる。
注文を受けて医院で入れ歯を作製、利用者が取りに来られない場合は最寄りの歯科医院や避難所に送る。登録料は3万円で、保管料が月500円。紛失した入れ歯を作り直すことや型どりをせずに入れ歯を作ることは保険診療の対象にならないため自由診療となり、実際に入れ歯を作る際に約20万円かかる。データは今後、3Dスキャンするなどしてデジタル化することも検討している。
ということ。
「入れ歯のデータを保管しておいて直ぐに代わりを作製するサービス」
「データ」というとなんとなくデジタル化したものを想像されると思いますが、個人情報における「個人データ」に相当するもので、患者の個人データの一部として印象(型取り)した模型、顎間関係の記録等をただ保管しているだけのようです。
ちなみにこの歯科医院は自費診療専門のようですが、保険診療においても「3ヶ月間」はこれらの型取りした模型は保存義務があります。
記事内では「データは今後、3Dスキャンするなどしてデジタル化することも検討している」と書かれていますが、現物で保管しようが精度の良い3Dデータで保管しようが、そもそも現実的にこのサービスは多くのトラブルを産む予感しかしません。
「入れ歯専門の歯科医院」とは思えない想定の甘さ
月額500円で入れ歯の型を保管しておいて、いざとなったら20万円で直ぐに作ります、というのがウリだそうですが、入れ歯の治療を真面目に行っている歯医者からすれば、こんなことはありえない話です。
理由は至極簡単で、歯と違って口の中の粘膜は時間経過と共にどんどん痩せていくからです。粘膜だけでなく、その下にある骨もどんどんと吸収していきます。また、大病して急激に体重が低下した場合にも、口の中の粘膜は同じように痩せてしまい、全く合わなくなります。
それなのに、今の入れ歯の型を保存しておいてそれを元に作ります、というのは想定が甘いとしか言えません。
「震災時に入れ歯を無くした被災者を想定している」というのであれば、尚更です。実際に被災地を訪問した経験のある方なら理解して頂けると思いますが、特に避難所に避難された方は生活の突然の変化により、体調を大きく崩される方が後を絶ちませんでした。体調の変化により、当然口の中の粘膜も変化し、入れ歯が合わなくなる、という方が激増しました。
そんな方が、保管しておいた型を使って入れ歯を複製してもらって避難所に送付してもらっても、全く役に立たない入れ歯が送られてくるだけ、というトラブル発生の予感しかしません。
自費診療専門の歯科医院はその辺のトラブル対応も上手なところが多いので、歯科医院の心配はしていませんが、それに騙されて20万円もドブに捨てる方が発生すると思うと胸が痛んで止みません。
同じ歯医者としてこちらからは以上です。
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